明治大学農学部農芸化学科 ゲノム微生物研究室の島田 友裕 准教授と来島 楓(博士前期課程2年)、中元 颯馬(博士前期課程1年)、安西 拓実(2021年博士前期課程修了)、藤森 美希(2019年農学部卒業)は、大腸菌の乳酸応答転写因子LldRが、乳酸を炭素源として利用する遺伝子群や、乳酸の酸ストレスに適応するための遺伝子群を活性化することを明らかにしました。本研究成果により、腸内細菌が乳酸に適応するための新たな分子機構が明らかとなり、乳酸菌を含む食品や飲料の効果の理解・応用が期待されます。
発酵乳や乳酸菌飲料に含まれる乳酸菌は、腸内で多量の乳酸を作ります。この効果によって有害菌の増殖が抑えられ、腸内腐敗の防止、腸内菌叢の正常化につながります。しかしながら、腸内細菌の乳酸に応答する分子機構は良く分かっておりませんでした。本学研究室では、大腸菌をモデル微生物として、大腸菌が持つ全ての転写制御因子の機能解明を目指しています。その一環で本研究では、乳酸に応答する転写因子LldRのゲノム制御ネットワークの解析を行いました。その結果、LldRは乳酸輸送体や乳酸デヒドロゲナーゼといった乳酸を炭素源として利用する遺伝子だけでなく、グルタミン酸を用いた酸耐性、膜脂肪酸組成の変化、グリコール酸の利用など、様々な機能の遺伝子群を活性化していることが分かりました。さらに、乳酸菌と共培養させた際の大腸菌の生存率にも、LldRが大きな影響を及ぼすことを実証しました。本研究成果により、腸内細菌が乳酸に応答するための仕組みが分子レベルで明らかになりました。 本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金、ロッテ財団研究助成、住友財団研究助成の支援を受けました。
研究成果は原著論文として、英国の国際学術誌「Microbial Genomics」(電子版)に2023年5月23日付で掲載されました。