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発酵食品学研究室
Laboratory of Fermented Foods

担当教員: 佐々木泰子 准教授/農学博士

<研究略歴>

職歴
① 東京大学農学部放射性同位元素施設 助手
② 明治乳業(株)ヘルスサイエンス研究所/株式会社明治:食機能科学研究所研究員 
③ 2012年 明治大学農学部農芸化学科 准教授 現在に至る

<主な担当科目>

微生物学I, 発酵食品学、 応用微生物学

<研究室所在>

第一校舎5号館6階601室

研究テーマ

当研究室では「乳酸菌」を対象にして様々な研究をしています。1人に1つの研究テーマが基本です。大きく3つの班に別れて研究を行なっており、研究テーマの多くは現在実際に企業で乳酸菌を扱っているときに生じた問題の解明や解決のための基礎研究です。3年生のはじめは乳酸菌の培養技術を習得し,その後はストレスに対する生残性を調べたり、ノックアウト株作製などの遺伝子操作、液体クロマトグラフィーによる乳酸や細胞外多糖の測定・蛍光による細胞内pHの測定など、共生現象やストレス耐性解明のための研究を進めています。特にヨーグルト発酵乳酸菌で長桿菌のブルガリカス菌は世界中で遺伝子操作が困難とされている菌ですが、当研究室では接合伝達プラスミドを利用した染色体遺伝子操作系の開発に成功し、ノックアウト株作製ができるようになりました。現在この手法を用いて多種類の遺伝子のノックアウト株を作製しています。主な研究内容を各班から紹介します。

(A) 共生班:ヨーグルト発酵乳酸菌の共生メカニズムおよび生育因子の解明

ヨーグルトは2種類の乳酸菌Streptococcus thermophilus (以下サーモフィラス菌) Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus (以下ブルガリカス菌) がミルクを乳酸発酵することでつくられている。どちらか一方の乳酸菌しか用いない場合、ヨーグルトが出来るまでに多大な時間がかかるが、サーモフィラス菌・ブルガリカス菌の両菌を用いることで、発酵時間が210倍に大幅に促進される。これは、2種類の乳酸菌が助け合う関係、「共生関係」にあるからだ。下記の図のように、サーモフィラス菌は、ミルク中に含まれる酸素 (溶存酸素)を消費し、ギ酸、葉酸、CO2 などをブルガリカス菌に供給し、一方、ブルガリカス菌は、アミノ酸、ペプチドなどをサーモフィラス菌に供給することで、互いの生育、乳酸生成を促進している。この共生関係のメカニズムの全容は解明されていないため、さらに解明していくことを目標に、日々さまざまな視点から研究活動を行っている。

ミルクの他に卵白を培地にして上記の2つの菌が生育できるメカニズムも研究している。

 

〈これまでに明らかにしてきたこと〉

■ヨーグルト発酵にはミルク中の溶存酸素がゼロ近くになることが必須であり、そのためにはサーモフィラス菌の NADH oxidase による溶存酸素消費が必要で、この遺伝子の機能を失わせたサーモフィラス菌とブルガリカス菌でヨーグルトをつくろうと試みても、ヨーグルト発酵が進まないことを見出した。

■サーモフィラス菌が持つ、ウレアーゼという酵素(ミルク中の尿素→NH3CO2) が、ヨーグルト発酵に重要であることを、ウレアーゼの機能を失わせたサーモフィラス菌を作出し、ヨーグルト発酵を実際に行うことで明らかにした。

 

 

 (B)  低温ストレス班:

低温への適応メカニズム・膜脂質および細胞外多糖の解析

 

(B-1)  ヨーグルト発酵に用いられる乳酸菌は製造、貯蔵中に様々な環境ストレスに直面する。中でも凍結や低温保存ストレスは避けることのできないストレスであり、当該ストレスによる乳酸菌の活力低下は産業的にも大きな問題となっている。凍結、低温貯蔵中において高い生存能を持つかどうかは、スターターとして用いる際や、プロバイオティクス株として用いる際にも重要な要因となる。そのため、これらストレスが菌にどのような影響を与え、それに対して菌がどのような応答を示すのかを理解することは非常に重要な課題である。しかし、乳酸菌のこれらストレスに対する応答メカニズムは未だ解明されていない点も多い。特にブルガリカス菌に関しては、これまで遺伝子操作が困難であったことから、他乳酸菌と比べて遺伝子レベルでの研究は遅れている。

一般に、温度の低下は細胞膜の流動性低下を引き起こし、物質輸送能やタンパク質分泌活性を低下させる。また、DNAmRNAといった核酸の二次構造が安定化し、転写、翻訳効率が低下することや、タンパク質のフォールディング効率の低下、リボソームの機能低下などを引き起こすことが知られている。菌はこれらの障害を克服するために特定のタンパク質を合成したり、細胞膜を構成する脂肪酸組成を変化させ、膜の流動性を調節することでこれらストレスに適応する。

当研究室のこれまでの研究により、ヨーグルトを低温保存(4℃)する前に低温ショックや熱ショックを与えることで、低温で保存中のブルガリカス菌の生残性が高まることが見出されている。そこで、私達の班では、ブルガリカス菌のこの適応現象には何が関与しているのか、低温で生き残るためにはどのような遺伝子・タンパク質が重要なのかを明らかにすることを目的としている。現在、接合伝達プラスミドを利用した遺伝子操作系の開発に成功し、ブルガリカス菌のコールドショックタンパク質(CSPscold shock proteins)の欠損株作出にも成功している。CSPs は低温ショックによって強く誘導されるタンパク質として知られ、多くのグラム陽性菌、陰性菌において保存されているだけでなく、低温で重要な働きを担っているという報告も多い。今後は、このCSPs がブルガリカス菌において具体的にどのような働きを担っているのか、また、低温ショック、熱ショックによってどのようなタンパク質が誘導され、低温耐性に寄与しているのかを明らかにしていく予定である。

 

 

(B-2)乳酸菌の産生する細胞外多糖 (Exopolysaccharides; EPS) の生理学的機能解析

私たちの身の回りには様々な微生物が存在し、その中には環境中に多糖 (EPS) を分泌するものがある。乳酸菌も EPS を産生する菌の一種で、ヨーグルトのとろみの主成分であるといわれている。

乳酸菌の産生する EPS は私たちに様々な恩恵を与えてくれる。例えば、ヨーグルトを保存しているとヨーグルトの表面に液体が染み出る現象 (シネレシス) や製品輸送時に形が崩れてしまうことを防ぐといった産業的な利点や、実際に食べたとき腸管のNK 細胞 に働きかけることで自然免疫の向上やアレルギーの低減、EPS の種類によっては抗腫瘍作用やコレステロール値の低下など、様々な機能が報告されている。

多糖の合成遺伝子は複数の遺伝子がクラスターを形成していることが多く、クラスター内の遺伝子には菌種間で保存されている領域と菌種・株によって多様に変化している領域とが存在する(Fig.1)EPS の構造の多様性(繰返し単位の構造、構成糖の種類、多糖化した時の分子量の違いなど; Fig. 2)は様々な機能につながり、私たちに種々の有益な作用をもたらしてくれている。

Fig.1 L. bulgaricus Lfi5EPS 合成遺伝子 (Ahmad A.Zeidan et al. 2017) 

Fig.2 EPS の模式図

私たちに様々な恩恵をもたらしてくれる EPS であるが、菌体にとってどのように役立ち、またどのようなメカニズムで生産が誘導されるのかの詳細は未だ明らかになっていない。近年、当研究室ではLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus (L. bulgaricus) の遺伝子導入技術を開発し、世界で初めて L. bulgaricus EPS 生産関連遺伝子の欠損株作出に成功した。作出した欠損株を用いて、現在 L. bulgaricus における EPS の役割の解明を目指し研究に取り組んでいる。

 

 (C)  酸素・酸・胆汁酸ストレス班:

酸素・酸・胆汁酸ストレスへの耐性能と耐性遺伝子の解明

酸素そして胃酸や胆汁酸、自らが排出する乳酸も乳酸菌にとっては大きなストレスであり、当研究室ではそれらストレスへの適応メカニズムの解明を目指している。乳酸菌は酸素が苦手であり、下図のようにヨーグルト発酵はミルク中の溶存酸素濃度が約0ppmになってから進み、主にサーモフィラス菌のNADHオキシダーゼが酸素を消費する。また当研究室ではこれまで不明であったブルガリカス菌の酸素耐性に関わる遺伝子欠損株の作成に成功し、現在解析を進めている。また細胞内pHの測定やプロテオーム解析、走査電顕などを用いた解析によって、酸や酸素、胆汁酸耐性メカニズムとそれを担う遺伝子群の解明を目指している。

胆汁酸(コール酸)に曝されていない乳酸菌

plantarum (SEM, 倍率25000)

コール酸(8mM)に曝されている乳酸菌

L. plantarum (SEM, 倍率30000)

研究業績

(1) 2018年:Journal of Dairy Science 投稿中: Urease plays a critical role in accelerating acidification in yogurt fermentation with various combinations of Streptococcus thermophilus and Lactobacillus delbrueckii spp. bulgaricus.   Yamauchi, Rikako; MAGUIN, Emmanuelle; Horiuchi, Hiroshi; Momoko, Hosokawa; SASAKI, Yasuko

(3) 2018年:BBA – Molecular and Cell Biology of Lipids 印刷中: The membrane phospholipid cardiolipin plays a pivotal role in bile acid adaptation by Lactobacillus gasseri JCM1131⁠T.

Shinji Kato⁠, Haruhi Tobe⁠, Hiroki Matsubara, Mariko Sawada⁠, Yasuko Sasaki⁠, Satoru Fukiya⁠, Naoki Morita⁠⁠, ⁠⁎, Atsushi Yokota⁠⁠

(4) 2018年:印刷中:Springer;“Methods in Molecular Biology, Lactic Acid Bacteria: Methods and Protocols”  “Intracellular pH determination for the study of acid tolerance of lactic acid bacteria” Hiromu Kudo, Yasuko Sasaki

(5) 2017年 JATAFF ジャーナル5(3)p7-13:「ヨーグルトの発酵を担う乳酸菌の共生とNADHオキシダーゼの役割」山本裕司、佐々木泰子

(6) 2016年 vol.27, p167-175,日本乳酸菌学会誌:総説「“乳酸菌”に見せられて-乳酸菌研究30年の歴史を振り返って-」佐々木泰子

(7) 2015年 vol.27, p167-175,日本乳酸菌学会誌: 総説「ヨーグルトを造る乳酸菌共生発酵研究の最近の知見」佐々木泰子

(8) 2014年 Bioscience of Microbiota, Food and Health Vol. 33 (1), 31–40, “NADH Oxidase of Streptococcus thermophilus 1131 is Required for the Effective Yogurt Fermentation with

Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus 2038”, Yasuko SASAKI1, Hiroshi HORIUCHI, Hiroko KAWASHIMA, Takao MUKAI and Yuji YAMAMOTO

 

・学会発表

(1) 2017年 The 12th International Symposium on Lactic Acid Bacteria,Construction and characterization of CspA- and CspB-deficient mutants of Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus. IWAMOTO D, HORIUCHI H, and SASAKI Y

(2) 2017年The 12th International Symposium on Lactic Acid Bacteria, “Urease of Streptococcus thermophilus plays a critical role in accerating acidification during fermentation in various combinations with Lactobacillus bulgaricus. Rikako Yamauchi, Momoko Hosokawa, Hiroshi Horiuchi, Yasuko Sasaki

(3) 2016年 11月AFSLAB Symposium (アジア乳酸菌学会 招待講演)IS10-03, Genome Evolution and Proto-cooperation between Two Lactic Acid Bacteria in Yogurt Fermentations.

(4) 2016年3月 日本農芸化学会 招待講演「美と健康~みんなが気になる基礎から学ぶ食品の機能性や微生物の役割:ヨーグルト発酵を担う乳酸菌の共生」

(5) 2015年7月日本乳酸菌学会 日本乳酸菌学会賞受賞講演「“乳酸菌“に魅せられて」

(6) 2014年12月日本乳酸菌学会 招待講演「乳酸菌・酢酸菌の生存戦略と産業利用:ヨーグルトを造る乳酸菌-共生発酵研究の最近の知見-」

 (7) 2014年 The 11th International Symposium on Lactic Acid Bacteria, “NADH oxidase of Streptococcus thermophilus is required for the effective yogurt fermentation with Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus”